コラム

1億総複業時代に向けて、未来を予測する必要性

染谷昌利

前記事で技術的失業について述べましたが、テクノロジーの進化は悪いことばかり生み出すわけではありません。時代に合わせてしなやかにビジネスモデルを変化させていくことで、チャンスを生み出すことも可能です。

テクノロジーに限らず、起きた現象を楽しむのか嘆くのか、チャンスと捉えるか逆境と捉えるか、そしてどのような行動を選ぶのかは本人の判断です。どうせ起きる未来なのであれば、積極的に流れに乗ったほうが得策です。流れに乗るためには(時代を生き抜くためには)予測と準備が大切です。

時代は一定のサイクルで変化しています。例えばインターネットを取り上げてみましょう。

僕がインターネットに出会ったのは約20年前でした。当時はアナログ回線にダイヤルアップ接続してインターネットを利用する形式でした。アナログ回線なので、電話がかかってくるとネットが切れるんです。その都度、「電話かけてくんな!」ってキレていたのは良い思い出です。

回線速度は56kbpsでした。ギガでもメガでもありません、キロです。その後ISDN(64kbps〜128kbps)を経て、定額で常時接続が可能になったADSL(8Mbps)へと進化していきました。そして今では光回線で1Gbpsが当たり前の速度になりました。

インターネットが普及して20年経ったわけです。では10年前にはなにが生まれたでしょうか。そう、iPhoneです。

スマートフォンが普及することで、情報を収集する手段は机の上のパソコンから手のひらの中の端末に変わりました。今ではほとんどのウェブサイトが、パソコンよりもスマホからの閲覧数の方が多くなっています。スマホ向けデザインのウェブサイトだけ制作する会社も増えています。ブラウザを捨てて、アプリに注力する会社も増えてくることでしょう。

20年前からの10年間はパソコンとインターネットの時代でした。その後の10年間はスマートフォンの時代でした。ではこれからの10年はどのような時代になるのでしょうか。その一つの答えがAIを搭載したスマートスピーカーです。

人はいつまで通販サイトでモノを買うのか

ちょっと考えてみてください。人はいつまで通販サイト経由でモノを買うのでしょうか。いや、人はいつまで検索するのかと言い換えても良いでしょう。

僕たちはパソコンを起動し、ブラウザを立ち上げ、GoogleあるいはYahooの検索バーに悩みを打ち明けることで、欲しい答えを得ています。その検索スタイルもここ数年変化していることに気付いていますか?「Hey Siri」とか「OK Google」とか、スマートフォンに話しかけたことはありませんか?

そう、音声検索です。人はもう、キーボードを叩いて検索する時代から、話しかけて相談する時代に移っているんです。

ここから先は僕の妄想です。妄想ですが、あなたの頭の中でも一緒にその妄想の世界を楽しんでください。

想像してみてください、Amazon Echo(スマートスピーカー)のある生活を。朝6時、スマートスピーカーから流れる穏やかな音楽で起きる。音楽が止み、今日のスケジュールを告げるスピーカー。一通り、1日の流れがわかった後におもむろに、

「今日、キングダム60巻の発売日ですけどどうしますか?」
「おおマジか、Kindle版買ってスマホにダウンロードしておいて」

もしかしたら自分から能動的に商品を探す時代は終わりを告げているのかもしれません。

これだけではありません。もっともっと便利な世の中になります。Amazonの恐ろしいところ、いや凄いところは「あなたの購買データを持っている」ということと、「レコメンドエンジン」機能です。

例えば1ヶ月前にブルーマウンテンのコーヒー豆を買ったとしましょう。顧客の購買パターンを分析すると1ヶ月ごとにコーヒー豆が購入されている実績があったとしましょう。そうなるとどのようなことが起こるのか。

「そろそろコーヒー豆が無くなる頃ですがいかがしましょうか?」
「あ、ホントだ。じゃあ同じの買っておいて」

という時代になるのは容易に想像できます。

そしてもう一つ、「レコメンドエンジン」。

レコメンドエンジンとはウェブサイト(この文脈ではAmazon)への訪問者が購入したり見たりした商品と関連性があり、購買意欲をかきたてるような商品を提案するシステムのことです。コーヒー豆を買っているということは、単にお湯を注ぐだけではなく、コーヒーメーカーを利用していることが想定できます。

毎朝の一杯のコーヒーの質を上げられる商品があったとしたら。もし、それを何気なくお薦めされたとしたら。あなたはその誘惑に勝てますか?

2018年8月現在、Amazonは「Alexa(Amazonのスマートスピーカーに搭載されているAI)に広告を導入する計画はない」と明言しています。ただ、なにか起こるかわからない時代ですし、他のスマートスピーカー提供メーカーが広告を入れない保証などどこにもありません。万が一を想定しておくことはリスクヘッジにもなりますし、何も考えていない人たちに対してのアドバンテージになります

このような未来が訪れるとして、あなたはどのようなビジネスを展開しますか?

インターネット広告への資金の流れは止められない

既存の新聞やテレビなどの広告費は毎年減少し、インターネット広告だけが毎年増加しています。

2016年「日本の広告費」は6兆2880億円 インターネット広告費が初の2割超え

なぜ既存の広告が衰退して、インターネット広告が伸びているのか、簡単に特性を2つ挙げると「興味を持っている顧客層にピンポイントに広告出稿できる」という点と、「結果が数値で追える」という点が挙げられます。

1000万円のテレビCMを打ったら何人の顧客が増えたという正確な数値は取れませんが、100万円分のネット広告を配信したら200件の問い合わせがあって、商品が50個売れ、利益が120万円だったというデータを取得することは容易です。

極論ですが、広告は100円の広告費で101円の利益が出れば出稿し続ける意味がありますし、99円の利益だったら赤字になるので出稿を取りやめるんです(新規顧客を得るために敢えて赤字でも広告出稿し続けるというやり方もありますが)。ネットではこの損益分岐点が明確に分かるわけです。

さて、近年のインターネット広告のトピックスとしては、スマートフォン広告とソーシャル広告は年々増加しています。

ソーシャル広告が伸びている理由は明確で、興味関心が高い層に向けて、的確に広告を表示させることができるからです。FacebookやTwitterのタイムラインに山登りのことばかり投稿していたら、その人のタイムラインにはSNOWPEAKやPatagoniaの広告がたくさん表示されるんです。

ソーシャル広告は基本的にクリックされた時点で広告費用が発生するので、関心度の高い人に広告を表示し、その広告がクリックされ、遷移した先で商品が売れれば利益になります。

年齢や性別、居住地、趣味、投稿の傾向がデータ化され、利用者の関心度が高いと想定される広告を掲載することで親和性の高いユーザーがクリックし、自社サイトに訪れ、購買活動に繋がり、結果として売上が伸びるわけです。

コンテンツが無料化していく時代と、個別対応による差別化・高額化

現代ではコンテンツ自体は価値(お金)を生まなくなってきている傾向があります。

佐藤秀峰さんの「ブラックジャックによろしく」、西野亮廣さんの「新世界」は無料で読むことができます。他にも続々と無料公開の作品は増えています。コンテンツとしての金銭的価値はゼロ円に到達したわけです。

確かに著作権は重要ですが、もはやコンテンツ自体では価値を担保できない時代になってきています。特にインターネットを中心としたデジタルコンテンツは、コピーが容易であることが一番の特性です。そして似たような情報は世の中に溢れています。イコール、ありふれたコンテンツの価値は次第にゼロに近づいていくことを示唆しています。

GoogleはマイビジネスというGoogleマップ上にお店の情報を表示させる仕組みをリリースしています。この仕組みを使うことで、検索結果の上位にお店の情報を掲載させることができます。しかも、発信者(お店の運営者)も情報を探している人も無料で利用できます。

例えば「渋谷 ラーメン屋」と検索してみると、実際に表示されるのが以下の画面です。

最上位にはGoogleマップが表示され、ラーメン店の情報も掲載されています。これがGoogleマイビジネスです。検索結果を下にスクロールすると、一般のウェブサイトが表示されています。あなただったらどこまで下にスクロールさせますか?どの情報をクリックしますか?

検索結果に表示されるサービスですから、閲覧者はもちろん無料で情報を取得することができます。多数の利用者(お店に訪問した人)がお店を評価し、写真を載せ、感想まで投稿してくれています。さらに電話もかけられますし、Googleマップと連動し、お店までの道順を知ることもできます。

ここまでの情報が揃っているのに、わざわざ更に下に掲載されているコンテンツまで情報を探しますか?

Googleマイビジネスが普及することで、特に影響を受けたのがグルメ系のウェブサービスです。具体的にはRettyや食べログなどです。

Googleマイビジネスの普及によって、Rettyのアクセス数は相当の打撃を受けたと聞きました。おそらく食べログも同様でしょう。Googleの検索プラットフォームを利用している以上、Googleがルールを変えてきたら影響を受けるのは当たり前です。Googleに限らず、大手の資本力と天才集団の頭脳と個人がどう戦うのか、その辺りを考えておかなければいけません。

僕はデジタルコンテンツ自体の価格は究極的には0円になっていくと考えています。いくら質が高くても、丁寧に作られていてもです。

価格は競争によって下がります。サービスが、主張が、解説がどこにでもあるようなモノであれば、その価格競争に飲み込まれていきます。そして資本力のある企業が価格を下げ、シェアを独占していくわけです。

では今後、僕たちのような普通の人間が、スモールビジネスで生き残っていくためには、何が必要になってくるのでしょうか。

答えは簡単で、自分にしかできないことを突き詰めて、効果的に発信することです。具体的には3つ。「独自性」と、「体験」と、「誰が/誰のために」というコンテクスト(文脈)が、コンテンツの土台となり価値を生む(担保する)わけです。

ここでしか売っていないという独自性の高い商品・サービスであれば価格は好きに設定できます。あなたのようになりたい、あなたから学びたいという期待感・信頼感が高ければ高いほど、無駄な競争を避けることができます。さらに顧客の細やかな要望に合わせた提案(パーソナル化/カスタマイズ)をすることで、高額化することができます。

わかりやすい事例としてはライザップがそうです。

単なるトレーニングジム、パーソナルトレーニングの業界の中で、2ヶ月で絶対にボディメイクするというコミットを掲げ、個人個人に合わせたプランを作り、毎日の食事内容までアドバイスするというパーソナライズをおこなうことで何十万円という価格にも関わらず、数多くの顧客を抱えることができたのです。

業界のトップランナーとなり、代名詞のポジションを得ることの重要性がわかると思います。

人は不便さを解消するためにお金を使い、非効率を楽しむためにお金を払う

人は不便さを解消するためにお金を使う

これはもう、読んで字の如しです。人間は不便の解消のためには積極的にお金を使います。

猛暑の真っ最中にエアコンが壊れた。お客さんが来る予定なのにトイレのウォシュレットが壊れた。締切が迫っているのにノートパソコンのキーボードがまったく反応しなくなった。このような状況で節約の方向に舵を切る人は少数です。便利さは失った時にこそ価値を感じるわけです。人間は元の便利な状況に戻したいんです

生活が豊かになる可能性を感じたときも人はお金を使います。パソコンの外部出力モニターがあるとディスプレイのスペースが広くなって作業が捗るようになったり、自撮りがさらに盛れる充電式のLEDリングライトがあったりしたらライフスタイルが豊かになりませんか?

時間を短縮するためのツールも同様です。勝手に掃除してくれて家事が楽になる、なおかつ動きがかわいいルンバ。アーリーアダプターを気取れて、話しかけるだけで電気が点いたり音楽が流れたり調べ物ができたりするスマートスピーカー。いろんな規制はありつつも、認可が降りたら絶対活用したい自動運転などなど。

何度も書きますが、人間は自分の生活が豊かになる、あるいは豊かになりそうと感じたモノには喜んでお金を出すわけです。

非効率を楽しむためにお金を払う

一方、不便さの解消とは矛盾していると感じるかもしれませんが、人は非効率・過酷さを体験することにも喜んでお金を払います。

歩いて5分のスーパーマーケットに車で行くくせに、月10,800円もの会費払ってトレーニングジムでスクワットをする。飛行機で行けば早くて安くてマイルも貯まるのに、クイーン・エリザベスII世号で500万円126日かけて世界一周をする。船でしか行けない、携帯電波が入らない、クレジットカードも使えないのに、なかなか予約が取れない大牧温泉観光旅館。

なぜ人は不便さにお金を払うのでしょうか。その一つの理由として、時間と手間をかけて「現地に行く」という行為は贅沢だからです。お金に余裕がある人は、現地に行って、自分の身体で体験したいんです。そしてSNSでシェアしたいのです。

その場所でしかできない体験を提供できれば人は動きます。

バーチャルリアリティが生み出す未来

VR(バーチャルリアリティ)のサービスが増えてきました。

現在はまだ感度の高い人が、お金を払ってVRグッズを購入して楽しんでいる方が多いでしょう。でも数年後の世界は、富裕層は現地に「体験」を楽しみに行き、一般層はVRゴーグルでバーチャル旅行(コンテンツ)を楽しむ世界になるかもしれません。ほとんどの人がディズニーランドをバーチャル世界で楽しむ世の中になるかもしれません。

解像度の高いスマートフォンと、スマホを固定するゴーグル、そしてアプリさえあれば、サグラダ・ファミリアでも、スフィンクスでも、マチュピチュでも、そして映画の中の世界でも、安全に我が家で楽しめる時代になっているわけです。

私の友人にVRのクリエイターが居ますが、彼は世界遺産のVR映像をたくさん作っています。代表的な作品がカンボジアのアンコールワット遺跡の映像です。映像データをiPhone Xにインストールして、VRゴーグルを装着することで、現地に行かなくても360°アンコールワットの映像が楽しめるサービスだと思いますか?

そんな陳腐なサービスではありません。アンコールワットの現地に行かないと「その映像」は見られません。位置情報が日本だと見ることができないんです。カンボジアに行って、眼の前にアンコールワットの本物があるのに、なぜiPhone経由でVR映像を見る必要があるのかって?もっともな疑問です。

そのVRデータが見せるのは「現在の」アンコールワット遺跡ではありません。カンボジア観光省・文化省、アンコール地域遺跡保護管理機構が監修し、現存する資料に忠実に、12世紀前半のアンコールワットの建築の様子や、全体像、周囲の様子を複数の年代に渡って体験できるんです。要は現在と過去をタイムトラベルできるサービスなんです。わざわざ飛行機に乗ってカンボジアまで行く理由が生まれませんか。

マトリックスが公開されたのは1999年ですが、20年を経て、映画の世界が現実化してきました。汎用型AIがさらに開発を進めたら、どんな世界になるんでしょう。

努力が無駄になる可能性

将来に備えて準備をすることは大切です。語学力を向上させることで、世界で活躍するきっかけを創り出すことができるかもしれません。でも翻訳機の発達により、その準備が無駄になる可能性があることも理解しておかなければいけません。

テクノロジーの発展は便利にもなりますが、普及することで特異性を一般化させます

1800年代のアメリカに、アイスハーヴェストという天然氷を切り出して世界に販売する仕事がありました。氷職人は自分たちの作業能率を向上させるために、氷を削りやすいノコギリを生み出しました。さらに技術を進化させた電気ノコギリが登場し作業効率は一気に高まりました。

しかし、天然氷の業界は縮小しました。技術が発展して作業効率が上がったにもかかわらずです。それはなぜか。

答えは氷業界の常識をまったく知らない人間が参入し、製氷機を使って工場で氷を作り始めたからです。不安定で非効率な天然氷ではなく、一年中いつでも安定した品質の氷が手に入るようになったからです。当然、天然氷を切り出し販売していた人々は仕事を失いました。さらには、氷が家庭でも簡単に作れる冷蔵庫(冷凍庫)が登場しました。わざわざ氷を買いに行く必要すら無くなったわけです。

これが破壊的イノベーションです。このようなことは歴史上、頻繁に起こっています。変化に気づき、対応できる筋力をつけておくことが重要なのです。

対応できる筋力とはなにか。それは知識と経験と行動、そして組み合わせによる独自性です。破壊的イノベーションに遭遇した天然氷業界は消滅したでしょうか?大半の天然氷業者は確かに無くなりました。しかしながら、天然氷を売りにした一部のかき氷店は行列が耐えません。それは天然氷というコンテンツに、他にはない価値を付与してお客様に提供しているからです。

未来は予言できません。でも自分が望む未来を創造することはできます。変化を楽しむ気持ちを持って、しなやかに時代を生き抜いていきましょう。

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