コラム

なぜ副業=長時間労働と認識されがちなのか

染谷昌利

先日、時事.comに副業に関する調査結果が掲載されました。

https://www.jiji.com/jc/article?k=2018091800807&g=eco

時間の経過により記事が削除される可能性あるので、ちょっとだけ引用として載せておきます。

副業、4分の3が認めず=企業、過重労働を懸念

政府が推進する会社員の副業や兼業について、4分の3以上の企業で認める予定がないことが、厚生労働省所管の独立行政法人、労働政策研究・研修機構の調査で明らかになった。認めない企業の82.7%が「過重労働で本業に支障を来す」と答えた。企業の抵抗感が依然として根強い様子がうかがわれる。

ベンチプレスで大胸筋を、スクワットでハムストリングスを追い込み過ぎて、本業に支障をきたしまくっている僕からしてみると何を言っているのか分からないのですが、まだまだ副業は本流ではないのだということが理解できる数値ではあります。

複業を積極的に推進しているサイボウズの青野社長もこのような呟きを残しています。
 

おそらく企業側が考える副業って、単純に時間給労働のイメージが強いんでしょう。現在はテクノロジーや自分の知識・経験を組み合わせることで、時間や場所に依存しない働き方ができるのですが、まだまだ浸透には時間がかかると思います。

なぜ新しい働き方が浸透しないのか。僕の中では以下の3つの原因があると感じています。

その3つの原因とは

1.新しい働き方に対する知識の欠如
2.本業に対する副業なのか、複数の本業なのかという認識の違い
3.信頼ではなく心配

もちろん、他にも細かな要因はありますが、本記事ではこの3つに絞って述べていきます。

1.新しい働き方に対する知識の欠如

知識がない、想像できない分野には否定から入ります。人は未知のものへの不安や恐怖を抱くんです。それ、お前の主観じゃねって思われたら嫌なので、いくつか取材記事や論文を置いておきます。

https://next.rikunabi.com/01/michifuan_norikoekata/michifuan_norikoekata.html

人類と感染症との闘い
—「得体の知れないものへの怯え」から「知れて安心」へ—
第 1回「人は得体の知れないものに怯える」
http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM0909_02.pdf

恐怖の現象学的心理学
http://web.sugiyama-u.ac.jp/~yamane/kenkyu/2007/fear07.pdf

そうそう、たかだか「想像できない分野には否定から入ります」という一文を載せるだけなのに、なぜこんなにも根拠を探しているかと言うと、想像で断言することが怖いからです。

複業のトリセツ本文内でも「海外に移住する人も増加しています」というワンフレーズを入れるために、根拠を外務省の海外在留邦人数調査統計の情報を探してきました。

未知を既知に変えることで恐怖は確信に変わり、行動に移せるようになるんです。

複業のトリセツ2章には以下のように載せています。これは知識の欠如による不安を減らすためです。

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人間には公平に1日24時間が与えられています。逆に言うと、いくら仕事のできる人でも1日が36時間にはなりませんし、働くことが嫌いな人の1日が16時間にはなりません。

本業に従事しながら空いた時間で副業に取り組むのは、慣れないうちはとても大変です。お金を稼ぎたいからという理由だけで副業を始めても、体力的にも精神的にも疲弊してしまいます。だからこそ自分の好きなこと・得意なことで、楽しみながら学びながらスキルアップや人脈構築ができる副業を選ぶことが好ましいです。

本業の他に一つの副業を挿し込むと、あなたの視野は大きく広がります。やがて、効率的に時間を活用する能力も向上していることでしょう。副業が二つ三つと増えていけば、さらに多くの体験や学びを得ることができます。

本章ではどのような副業があるのか、どのような環境の人が向いているのかについて具体的に述べていきます。自分の能力を生かせる副業は何か、どの副業を組み合わせれば効率的に働くことができるのか、自分のライフプランを豊かにできそうな副業は何かと考えながら、自分に最適なワークスタイルを見つけてください。

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既知になることで、行動に移すことができます。

2.本業に対する副業なのか、複数の本業なのかという認識の違い

副業という言葉の印象も良くないかもしれません。

メイン(本業)に対するサブ(副業)という印象を与えてしまうのは否めません。副収入を得るために、本業以外の仕事に取り組まざるを得ないという感じですね。

この副業・本業については5章のインタビューにて、サイボウズの藤村さんと、ユニリーバの島田さんが述べている内容が意識改革のヒントになるはずです。そのインタビューの一部を抜粋して紹介します。

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サイボウズ藤村さん

代表取締役社長の青野慶久は、「人間は普通に生きているだけで複業状態である」と言っています。

一日の中で人間は仕事もするし、家事や育児をしている人もいます。会社の仕事以外に、PTAや地域のボランティア活動をしている人もいます。地域へ貢献する活動も立派な仕事です。一日の中では、「働く」以外の活動が複数あることが普通です。

複業と聞くと、何か特別なことだとイメージしがちですが、人間が生きていく上では、むしろ複業が普通の状態なのです。

私が複業に求めていたのはお金ではありません。自分の持っているスキルや経験にどういう市場価値が付くのか、社外からどのように見られているのかというところに興味があって、自分の価値が世間に認められるまではしっかり複業に取り組もうと決めてやっていました。

本業に複業をプラスするということは、それまでの生活に大きな変化を生みます。それは時間の不自由さかもしれませんし、体力的なものかもしれません。目的意識、あるいは何かしら譲れないものが決まっていれば、不慣れな複業活動に心が折れそうになった時に自分を奮い立たせる軸になります。

頭の中でイメージしておくだけではなくて、言語化してアウトプットしておくことをお薦めします。

お金が目的になってしまうと厳しいと思います。なぜなら、お金の分しか仕事しなくなってしまい「この報酬ならここまでのアウトプットね」というルールが自然とできてしまうんです。

私の場合、「会社では得られない経験を得たい」「自分の新しい軸を作りたい」という目的があったので、リターンの額を遥かに越えた労力を投下してもまったく苦になりません。今まで休日に仕事するなんてことはまったく無かったんですが、土日に楽しみながら複業の仕事をしている自分がいたりします。

本業が忙しく、複業ができない時もあります。無理をすればなんとかなるのかもしれませんが、自分のキャパシティを超えた状態が長期間続くと、本業も複業も共倒れになってしまう恐れがあります。自分の生きること、働くことの目的を考えた上で、複業がどのような位置付けになっているのか理解できている人が、複業にフィットしやすくなると思っています。

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ユニリーバ 島田さん

年令を重ねて「これもあれもやってみたかった」と後悔する人生を送るくらいなら、いまやりたいことすべてにチャレンジして欲しいと思います。でも、「ブームだから」と、何となく副業に取り組むのは違うな、と感じています。自分の将来のキャリアや、人生の目的がしっかり固まっていないと、副業は単に副収入を得るための労働になってしまいます

そもそも私は、本業・副業という区分けが好きではありません。本業・副業と分けてしまった時点で「副」の方に本気で取り組めなくなる可能性があるからです。せっかくチャレンジするのなら、すべての業務に本気で取り組んで欲しいと思っています。

自分のスキルをもっと高めたい、本業では関われないジャンルのプロジェクトがある、親友にヘルプを求められた…、目的は何でも構いません。すべて本業の意識で取り組むことで、副業ではなく本業が複数ある状態になります。これがパラレルキャリアのスタート地点です。

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3.信頼ではなく心配

もちろん、企業の管理責任として、社員の健康状態を把握しておくことは大切です。しかしながら、個人の意志まで管理することは違うと考えています。

これについても5章のインタビューでユニリーバの島田さんが答えてくれています。

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ユニリーバ 島田さん

これからの時代、企業が複業を認めるか否かの決め手は「社員を信頼できるかどうか」だと思っています。

今までの就業規則は「心配」をベースに作られています。例えば、勤務時間外に他の仕事に取り組んだら、エネルギーが分散されて本業に力が入らなくなり、本業の成果が下がることを心配しているのです。

あるいは、社内情報が外部に漏れると危ぶむ会社も存在します。彼らは、ルール外の活動を極端に恐れています。もちろん、社員の健康維持など大切な心配もありますが、必要以上に心配をしているように感じます。言い換えると、社員の自律性を信頼してないのです。

心配ありきの社会では、個人個人が持っている能力や可能性を最大限に活かすことができません。中~長期的にみると、これは大きな損失です。一人ひとりの能力を最大化できないと、将来的な企業体力が落ちてしまい、チャレンジ精神の強い社員のモチベーションの維持も難しくなります。社外活動によって得られるスキルや経験も取り逃がしてしまいます。

そして最大のデメリットは、イノベーションが生まれないことです。イノベーションはアイデアの組み合わせによって生まれます。毎日同じことを続けていたら、独創的なアイデアなんて出るわけがありません。

同じ時間に起きて、同じように朝に新聞を読んで、同じ満員電車に乗って、同じオフィスに行き、同じ部門の人たちと顔を合わせて、そこに何の刺激があるでしょうか。これらは完全にルーティーンです。ひらめきやアイデアは、新しい刺激を受けることによって脳が活性化されて、生み出されるものなのです。

そしてもう一つ重要なポイントが、アイデアをシェアできる「場」があることです。すごい閃きが頭の中に浮かんだとしても、そのアイデアを自分の中に閉じ込めてしまう人はたくさんいます。

その最大の理由は「バカだと思われたらどうしよう」、「こんなこと言って嫌われたらどうしよう」という羞恥心や恐怖心です。

信頼関係で結ばれた「安心できる場」を提供すると、さまざまなアイデアがシェアされるようになります。共有された思い付きレベルのアイデアに対して、仲間が意見を述べ、ブラッシュアップし、実行可能なプロジェクトに昇華させていく、これこそがイノベーションです。

たとえプロジェクトがうまくいかなくても、失敗から学べることは数多くあります。失敗を恐れることなく経験を積めば、小さな閃きが大きな結果につながっていくのです。

副業・兼業禁止の会社と解禁している会社とでは、社員が新しいものに触れる機会は大きく変わります。新しい経験に乏しく、アイデアが出てこない「心配」をベースにした会社と、さまざまな意見が飛び交う「信頼」をベースにした会社とでは、将来の成長力は天と地ほどの差になることでしょう。

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元気のない企業が散見されるのは、社員の自律性を信頼していないことが原因かもしれません。

知っていることとできることは違う

複業のトリセツのあとがきにも載せていますが、もう一度紹介します。

https://parallel.careers/prolog/

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本文中にも書きましたが私はよく「知っているけどやらないことと、知らないからできないことはまったく違う」という話をします。知識を保有したうえで、やるかやらないかを「自分の意志できちんと選択している」ことが重要なのです。

自分で選んでいる生き方と、誰かの判断に流されている、あるいはそもそも選択肢があることすら気付かない生き方では1年後のポジションは大きく変わってくるでしょう。

人間は自分が認識できる範囲でしか選択できません。

自分が経験している、あるいは他者の経験(歴史)を学んでいるから、自分の望む未来の予測が行えるのです。視野が広がり、選択肢の幅が広がり、進む方向を選ぶことができるようになれば、自分の意志で生きている時間が増えていきます。結果として人生の自由度が上がるわけです。

自分の能力を高めたい、もっと豊かな暮らしをしたい、人脈を広げたい、老後のために蓄えを増やしたい。複業の方法や目的は人それぞれ違います。ポジティブな気持ちで複業に取り組むことも、ネガティブな恐怖心から副収入を得ようと考えることも自由です。そして正解もたった1つではありません。

世の中にはたくさんの事例が溢れています。その成功パターン・失敗パターンを学ぶことで、その中から「自分にとっての正解」を選択することができるようになります。本書では数多くの副業の紹介、複数人のインタビューなど、限られたページ数の中で可能な限りの選択肢を提案しています。

新しい何かをはじめるのか、現状のままの生活を続けるのか、選ぶのはあなたです。

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あなたの人生を決めるのは「会社の方針」ではありません。3/4という大多数で過ごすのか、1/4の世界を体験するのかを選ぶのはあなた自身です。

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